第四話「初体験」

ロードスター物語
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社会人になったら自分のクルマを持ちたい。なんて漠然と考えていた。

誰がなんと言おうと『クルマは男のステータス』だ。

ただ何となく、カッコ良い車が欲しいと思っていたけど、運転が楽しいクルマがあるらしい。

(そう言えば、お姉さんも楽しそうに話をしてたな)

窓を開けベランダに出る。

(今日は良い天気だね、後でディーラーに行かなくちゃな・・・)

今日は、ディーラーのお姉さんと約束をした日だ。

約束をして、女性との会うのは、どんな男でも緊張するんだ。

それがお客さんと店員さんでも・・・。

んな訳ないか・・・。

(しかし、可愛かったな・・・)

先日、雨の中でお姉さんのロードスター愛を聞いてから、僕にもロードスター愛が芽生えた。

何よりも、ロードスターについて、アツく語ってくれたお姉さんが可愛かった。

(これが恋なのか?)

ちょっと自分でもヤバい奴だと思う。照れ隠しにハイライトに火をつける。

朝の準備を済ませ、約束通りディーラーに向かう。

【年度末決算セール】おすすめ車両
金額 40万円
年式 1990年
修復歴 なし
走行距離 12万キロ
車検 なし
エアコン、パワステ、パワーウインドウ

今月いっぱいは「年度末決算セール」なので、この金額でユーノスロードスターが手に入れることができる。

いやいや、ロードスターを買うなんて全然決めてない。

お姉さんと約束をしたからディーラーに来ただけだ。

社会人になったら自分のクルマが欲しいとは思っているけど、今買うかというと疑問。

ゆっくり考えてからで良いと思う。

「あっ、来てくれたんだぁ!! 待ってたよっ!」

ディーラーに着くと、あの可愛いお姉さんが笑顔でお出迎えをしてくれた。

悪い気はしない。

(この笑顔に癒される・・・)

「とりあえず、この子の鍵、取ってくるね」

事務所に小走りで鍵を取りに行くお姉さんの後ろ姿を眺めていたら、急に振り返り

「あっコーヒー飲む?」

「大丈夫です」

「うん。鍵取ってくるね」

(・・・完全にタメ口になってますよね?)

なんだ、この空気感は?

鍵を片手にお姉さんのトークが始まる。

「この子はワンオーナーで、ずっとうち(ディーラー)がメンテナンスしてきたから、状態はバッチリ。ちょっと距離は伸びているけど大丈夫」

「そうなんですか」

「記録簿も揃っているしね。ちなみにユーノスってマツダの販売チャンネルのひとつって知ってた?」

「知ってますよ。後、アンフィニとか、オートザムとかですよね」

「正解。でね、ユーノスって、ダサいマツダのイメージを感じさせないようにするための戦略だったんだって」

(マツダの社員がダサいって言って大丈夫なのか?)

「へぇ〜」

「ユーノスってロードスター以外に人気車種が出せなかったんだよ。車に詳しくないと『ユーノス』イコール『ロードスター』と言うか、どっちが車の名前なのか分からない人もいるんだって」

「まあ、分からなくもないっすね」

「あっごめん。この子を見に来たんだよね」

(・・・そうです。このロードスターを見に来たのです)

「まだ塗装も綺麗でしょ? 屋根付きの車庫に駐車をしていたらしいので、あまり焼けていない」

9年落ちの車としては、凄くきれいだ。それより、ロードスターのボンネットを指でなぞるお姉さんの手にそそられる。

「内装も見る?」

「お願いします」

「ちょっと待って。幌開けるよ」

低い運転席に膝をつけ、手慣れた手つきで幌を開けてくれた。

幌の開け方より、違うところに集中してしまう。

スカートから伸びるお姉さんの御御足が気になってしょうがない。

見えそうで、見えない。究極のエロリズム。

「ちなみにロードスターは茶室をイメージしているのでドアノブも他の車とは違うデザインになってるんだよ。指を入れて開けるんだ」

「おぉすげ〜」

「ちょっと乗ってみて。ロードスターは、茶室に入るための『にじり口』のイメージで、背を低くして茶室に入る感覚、非日常への入り口を演出してるんだ」

ちょっと乗り降りしにくいのは、そんな理由なのね。後付けかもしれないけど。

促されるまま、狭い運転席に収まる。

「どう?」

「良いっす」

「何が?」

(えっ、なんで怒ってんすか?)

「なんか狭いんだけど、しっぽり来るっていうか・・・」

「うん。そうなんだよね。ロードスターって、窮屈に感じるけど全てに手が届くというか、運転に必要な操作がしやすいんだよね」

(セーフ。間違ってなかった・・・)

なぜか、お姉さんの機嫌をとらなければいけないような気になってくる。

「他に気になるところ、ある?」

幌を開けているので、運転席に座っていると外にいるお姉さんを見上げる感じになる。

(・・・可愛いっす。惚れてしまいそう・・・)

「内装はシンプルっていうか余計なモノがない」

「そう、ロードスターの内装はシンプル。シンプルというか安っぽい。それには理由があるんだ。ロードスターは走り以外に出来るだけ、コストをかけないことにチャレンジしたんだって。誰にでも手が届くように、コストダウンをしたんだ。でも簡単じゃなかったそうじゃ。凄く苦労をしたそうな。じゃかな、それが日本の侘び寂びの精神なんじゃよ」

(なぜに、おばあちゃん?)

「エンジンをかけてみたらどうじゃ?」

キーを捻る。

ブオオオン、ボボボボ・・・。

「どうじゃ、この子もマフラーが変えられているんじゃ。この上品な音。ワシのロードスターと同じ柿本改のマフラーなんじゃよ。おすすめじゃ」

確かにうるさくなくない。上品なエンジン音だと思う。

「どうじゃ、寒いし、中でお茶でも飲まんかね?」

ユーノスロードスターは、ナンパなクルマと言うイメージを持っていた。

お姉さんの説明の上手さもあるけど、ロードスターの良さが分かってきた気がする。

ガチのスポーツカーに乗るより、ロードスターくらいのナンパな車の方が良いのかも知れない。

「試乗はできないですもんね・・・」

「う〜ん。この子は車検がないから試乗は出来ないなあ。私のジョージだったら、助手席に乗っても良いけど?」

(お姉さんのJリミテッドはジョージって言うんですか?)

「あっいいですよ。状態良さそうだし。違う車に乗っても意味がないですよね・・・」

「ちょっと待ってて。店長に言ってくるから。ジョージに乗ってよ」

お姉さん、ちょっと待ってください。

話、聞いてます?

被せ気味に話していますが、ジョージに乗る必要あります?

と言うか、ジョージに乗せてくれるなら、お姉さんにも乗せてくださいよ。

なんなら結婚を前提にお付き合いして頂けませんか?

(って、もう居ないんかいっ!!)

---

「お待たせっ」

スカートからジーンズに履き替えたお姉さんの運転するジョージでドライブデート。

お姉さんの計らいで、幌をを開け、オープンでの試乗(?)。

街の騒音、ジョージのエンジン音で普通に会話が出来ない。

必然的に大声で耳を寄せ合い会話をする。

近い・・・。

お姉さんの匂いが嗅げるくらい近い。

(幸せだなぁ・・・)

近所を一周回り、戻ってきた。

「どうだった?」

「(お姉さんとのドライブが)最高っす」

「良かったっ」

お姉さんの運転するロードスターに乗り、ロードスターに対するイメージが変わった。

見た目重視のオシャレ車だけじゃなく、しっかりとスポーツカーしてんじゃん。

そして何より運転するお姉さんが楽しそうだった。

ロードスターは運転が楽しいクルマなんだろうな。

運転していて楽しい車か・・・。

ロードスターも悪くない。

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